梅の便りが聞こえる頃になると、お子様の卒業式や入学式の装いについてお考えになる方も多いのではないでしょうか。
「今回は着物で参加したい」とお思いになっていただけると、私たちとしてはうれしい限りですが、気になるのが「そういう時って、着物はなにを着たらいいの…?」ですよね。レッスン中でも良くご相談をいただきます。

着物は、普段の生活からは少し離れた状態になってしまっているため「しきたりとか難しそう」と思われがちです。ですが、着物を含めた衣類は時代によって着方や好み、用いられるシーンなどが変化し、徐々に移行していきます。今まさに、着物は移行している時期だと感じています。ですので、あまり「昔はね」や「ルールでは(←いつの?)」などにとらわれ過ぎず、洋服でも着物でも同じように「お相手やご自身のお立場、またその場の調和にそぐうもの」であればよいのではないでしょうか。
とはいえ「今の一般的な基本はどうなの??」という疑問を解消できればと思いますので、今後また変わっていくかもしれませんが、現状の慣習をご紹介したいと思います。
まずは着物編から!
入学式、卒業式には母としての付き添い着は何がおすすめ?
この問いのお答えとしては
◆訪問着
◆付け下げ
◆色無地
のうちのどれかであればOK!、とお答えしています。
また、小紋という名前がついていますが、“江戸小紋”もふさわしい装いの一つです。
入学や卒業の主役はお子様。お母さまとして華を添える装いを選ぶと素敵ですね。
まずは 着物の種類について、簡単ですがご紹介していきます。
※下記のそれぞれの図は、代表的な柄の配置の一例です。
◆訪問着ってどんな着物?
由来としては名の通り「訪問する時に着る着物」として誕生、大正時代に東京にある呉服店(今は百貨店)が命名して販売が始まったと言われています。他の百貨店では”社交着”と命名して販売されているものもあったとか。時がたち、ネーミングとしては”訪問着”にまとまって定着したようです。
一見して他の着物との区別は、柄の配置やその分量です。縫い目を越えて、柄がつながった配置になっています。ベースとなる部分の色や、描かれる柄は様々です。
販売時は、仮縫いで着物の形になっているものがほとんどです。

◆付け下げってどんな着物?
付け下げは、昭和に入り、訪問着ほど格式ばらない気軽な外出用の着物として定着したようです。
訪問着よりも柄の分量が少なく、また柄の配置も少し違います。縫い目を越えた柄の配置は少な目で、全体にすっきりした印象です。こちらも訪問着と同じく色や柄は様々です。
販売時は、反物の状態が多いです。

以前は、「訪問着らしい」「付け下げらしい」と柄やその分量で分類しやすいものが多かったのですが、訪問着と付け下げの間を埋めるような「付け下げ訪問着」と呼ばれる着物も出ています。そのため、仕立てると訪問着とほとんど違いがないように見えることもあります。新しいもの(販売時)だと、仮縫いされているか反物か、で判別ができます。
◆色無地ってどんな着物?
その名の通り、一色の地色で染められた着物です。ベースとなる生地は様々で「地紋(じもん)」と呼ばれる柄があるものもあります。友禅や刺繍などで描かれた柄はありません。
こちらも販売時は反物の状態です。

◆江戸小紋ってどんな着物?
江戸時代、武士が正装時に着る裃に、それぞれの藩が定めた小紋を型を用いて染めた物から発展し、遠くから見ると無地に見えるような細かい柄となっています。奢侈禁止令で贅沢や派手なものが禁じられ、抑圧された情勢の中でも、武士や町人たちの洒落心が育てた染め物です。
その中でも、下記の三柄は『小紋三役』と呼ばれ、江戸小紋の中でも格が高い柄とされています。
こちらも同じく、販売時は反物の状態が多くなっています。

上記の着物について、共通して言えることは
①礼装(しきたりごと)には 染めの着物のほうが織の着物より向いている
②それぞれの着物の柄には 礼装向きもカジュアル(普段)向きもある
③紋が入っていれば格が上がる
ということです。
①礼装(しきたりごと)には 染めの着物のほうが織の着物より向いている
どんなに高価な織の着物であっても、染の着物のほうが格上とされる慣習があるため、卒業や入学などの礼装の時には、染めの着物を着るほうが無難です。
なお、一般的にざっくりな説明ではありますが
▶染めの着物=白い布に後から染めをほどこしたもの
代表的なものとしては“ちりめん”という生地で、艶やかで柔らかな風合いが特徴です。その白い生地に後から染料などで染めたり絵を描いたりするものです。
▶織の着物=糸を染めてから織ったもの
代表的なものとしては、”紬”と呼ばれる生地で、節がある糸などで織られざっくりとした風合いのものです。※つるつるした生地風のものもあります。
②それぞれの着物の柄には 礼装向きもカジュアル(普段)向きもある
それぞれの着物は礼装のためのものばかりではなく、パーティ向きなどの柄やおしゃれ向きの柄もあります。そのため、入学や卒業といった式典などに出席する場合は”古典柄””吉祥文様”※1などが描かれた着物を選ばれるほうがおすすめです。
また、草花がリアルに描かれた訪問着や付け下げは、「その柄の季節感を大事にして、あえて先取りに着るほうがいい」と言われることもあります。ですが『季節が違うのは分かってるけどこの着物で!』とご自身で季節感をご理解いただいたうえでのご着用は”あり”だと思います。
また、江戸小紋は”三役(さんやく)”※2と言われる柄は格が高いとされています。
※1 古典柄・吉祥文様……松竹梅や菊、牡丹、桜などの草花文様、鶴、鳳凰、貝桶、七宝や宝尽くしなど
※2 小紋三役…鮫小紋、行儀、角通し。これに万筋と大小霰を足すと ”小紋五役”と言われる
③紋が入っていれば格が上がる
着物の背中にご自身のお家の家紋が描かれた「紋」、これは有り無しで格式が変わります。
それぞれ、紋が有れば格が上がる扱いになりますが、生地の地色を白く抜いた「抜き紋」と刺繍で表現した「縫い紋」があり、「抜き紋」のほうが格上となります。紋の数も五つ、三つ、一つ、と数が多いほど格が上のものになりますが、五つ・三つは留袖などに入れることが多くなっています。
以前は訪問着にも入れていたそうですが、最近では入れることはかなり少なくなっています。
色無地は、茶道をされている方は紋を入れる方が多いようですが、入れない方もおられます。江戸小紋は、紋有り、紋無しどちらもあります。

…と ここまで入学・卒業式にふさわしい着物の種類を紹介しました。次回は、帯選びについてご紹介します。
「コーディネートのポイントは?」という具体例は、こちらのコラムでご紹介しています。
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こちらの記事は、帯のコーディネートについてご紹介しています
こちらの記事は、当日のご準備やご用意いただくと安心な小物、また雨対策などについて
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